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9月 『記憶に残る展覧会』
〜存在感が増してきた東京都写真美術館を訪ねて〜



東京・恵比寿のファッションビルやホテルなどが集まるお洒落な再開発地区の一角に、東京都写真美術館(以下・写美)がそびえ立っています。オープンは1995年ですが、開館以来観覧者数が思ったように伸びず、「都財源の無駄遣い」とまで酷評された事もありました。
しかしこの写美、ここ2年で大きく方向転換し、急に元気になってきた感があります。今月はその写美の広報担当者に、最近の動向について率直なインタビューを試みました。

インタビューに答えて下さった方:
東京都写真美術館 学芸課
普及係 広報宣伝担当 久代明子氏

情熱を込めてインタビューに
応じる久代氏

編集部:まず、写美の簡単な歴史からうかがえますか?
●久代氏:日本は世界に冠たるカメラ工業国ですが、実は写真文化については後進国と言わざるを得ない状況でした。歴史的に著名な写真作家も数多くいるのに、その作品を収蔵し展覧する公共の写真美術館が無かったのです。
そうした状況を憂いた写真家や業界の声に応える形で、鈴木知事体制のもと、1990年に一次開館し、その後恵比寿ガーデンプレイスのオープンに合わせて1995年にグランドオープンしました。

当初から「写真専門」美術館としての明確なコンセプトがあった訳ですね?
●名前は写真美術館となっていますが、写真だけではなくビデオ作品やコンピュータグラフィックス作品など、「映像」を総合的に取り扱っています。またその取り扱いカテゴリーもコマーシャル、報道・ドキュメント、純粋なアートに至るまで、様々な映像表現分野から集めています。

開館以来8年間経ちますが、正直なところつい数年前まではその存在自体が広く知られているとは言えず、しかも『堅い』『敷居が高い』『つまらない』というイメージがあった様に思います。
●日本初の写真と映像の専門美術館ということで、開館後しばらくは収蔵作品の拡充や資料的価値の高い作品の紹介など・・・、確かにカタい展示が多かったと思います(笑)。美術館ですから、学芸員の視点による作品紹介は日本の写真文化を高めていく重要な仕事なのですが、しかしその反面、時代性を感じさせる作家や新たなメディアとのコラボレートなど、公立美術館としての「親しみやすさ」に欠けていたと思います。

しかしそのマイナス的なイメージは、仏エルメス社を特別協賛に迎えた『馬へのオマージュ』展(2001年)、人気TV番組の特別編『ワー! マイキー』上映会(2002年)、写真と秘宝とを組み合わせ展示した『四国霊場八十八ヶ所-空海と遍路文化-』展(2002年)、という新しい着眼点の企画展が打ち出されて大きく変わりました。世間の注目度も高まり、「面白いものをやるようになった」というプラスイメージが出来てきましたね。
●都からの運営予算が年々削減される中で、『見える結果を出す』ことに工夫し、そして現館長(資生堂名誉会長:福原義春氏)のもと、『とにかく観覧者数を底上げし、美術館としての存在感をアップさせる』という明確な目標を掲げて企画を行った事が、イメージの変化に繋がったと考えています。
当館は公共の美術館ですから、「都の文化施設」としての使命を果たさねばなりません。その為にまず、企業経営のプロである福原館長より、過去の展覧会の企画と運営などについての見直しが命じられました。学芸員の自己満足的な展覧企画になっていないか、現実的な収支計画は立っているか、効率的な広報を計画しているか、など現状を見直す事から始まりました。美術に対するコダワリに捕らわれいるだけではダメで、ここ数年は「存在感のある美術館」、「記憶に残る展覧会」、といった年度目標を掲げて観覧者に喜んで頂ける企画を進めています。

写美の外回廊で告知される
「ワー! マイキー」展


その新しいテーマに切り替えてから数年、観覧者の動向はどう変わってきていますか?
●2001年からは展覧会だけでなく、1Fホールでの映画上映にも力を入れています。上映作品については、興行にはのりにくいマイナーながらも良質な作品や話題の人気作品まで、当館独自のラインナップを取り揃えています。その為、従来の中高年男性を中心とした写真愛好家だけでなく、若いカップルや学生さらには家族連れなど、新たな層の観覧者が増えています。
写真に興味を持たれている方へのオススメの映画としては、9月6日から上映する『戦場のフォトグラファー / ジェームズ・ナクトウェイの世界』があります。報道写真家を題材にした映画で、写真を考える意味でも、あるいは純粋にドキュメント映画としても、示唆に富んだ内容の作品です。この他には、東京国際映画祭もこの秋当館で開催予定です。
観覧者数については別表の通りですが、2002年度に開館以来初めて年間36万人を突破しました。例えば1997年は15万人でしたから、単純に見ても観覧者は倍増していると言えます。設備・施設的な限界もありますので単に人数を伸ばすだけが重要なのではありませんが、今後は「年間30万人」をひとつの基準として、これを割らないように努力したいと思っています。

平成9年から14年の観覧者数動向

3つの展示室があると言われましたが、これらの展示スケジュールとコンビネーションには規則性があるのでしょうか?
●あったり、なかったり(笑)。例えば昨年『四国霊場〜』展を2F・3F展示室で開催していたとき、B1F映像室では『ビートルズ』展を行っていました。結果として、様々な世代の観覧者が館内を行き来することになり、館としても興味深い現象でした。
広報担当としては、メディアに合わせて広報すべき展覧会を変えることが出来たので、便利でしたが準備が大変でした(笑)。

写真作品の展示について、最近の動向を教えて下さい。
●大きく分けてコマーシャル・報道・ファインアート、さらににはコラボレート展示など、様々なカテゴリーから展覧会企画を行っています。開館当初はファインアートや古典作品を展覧する事も多かったのですが、ここ数年は報道写真の重要性をさらに広く知っていただくよう『世界報道写真展』を開催し、大変人気を集めました。10月からは週刊誌などで有名な宮嶋茂樹氏(委細未定)、11月にはセバスチャン・サルガド氏の報道写真展を開催します。
コマーシャル分野については、9月20日から上田義彦氏による20年分の作品をセレクトして一挙に公開する計画が進行中です。日本写真作家協会の展覧会も開催しますので、そこでは現役のプロ達による競作がご覧頂けます。
コラボレート展示としては、10月12日より『写真と絵画の展覧会 士(さむらい)-日本のダンディズム』展があります。これは1854年のペリー来航とともに日本に紹介された写真技術が、日本文化に与えた影響を写真と絵画で紹介します。高知県以外では初公開となる、坂本龍馬のオリジナル写真原版も話題です(11月15日のみの特別展示)。
また昨年からは、新進作家を紹介する展覧会を始めました。今年度は9月9日〜10月5日まで、『日本の新進作家展-幸福論』と題した三人展を開催します。蜷川実花氏・三田村光土里氏・小松敏宏氏という30代の気鋭作家達による、それぞれの「幸福」が今という時代性をどの様に反映して表現されるのか、写真作品のみならず展示空間も含めたビジュアルアートが見どころです。

新進作家の話が出ましたが、美術館としてもっと日本の文化の中に写真を広めていこうという具体的な取り組みはあるのでしょうか?
●写真や映像のチカラは、柔軟な若い脳にストレートに伝わりやすいという特徴があります。そこで子供の頃から写真・映像芸術に触れる機会を作るため、当館には児童や生徒を受け入れて様々な映像教育が行える「スクールプログラム」( http://www.syabi.com/school/school.html)を用意しています。また生徒や先生方の要望に応じて、各校ごとにオーダーメイドのスクールプログラムも承っています。
しかし残念ながらこれまではPR不足もあり、さほどスクールプログラムの存在が認知されていませんでした。ところが文部科学省の学校指導要綱が昨年変更され、中高の美術教育に映像教育を盛り込むことが必須となりました。そこで当館では今後はもっと宣伝活動に力を入れて、人格形成期の児童・生徒を中心に、総合的な映像芸術に触れてもらえる機会を少しでも多く提供したいと考えています。
学校教育とのコラボレート以外の分野では、ピンホールカメラや幕末時代の写真技法、といった興味深いテーマを元に、親子参加型の「体感できる」ワークショップを積極的に開催して好評を博しています。
また当館では、これからの若い才能を積極的に評価し、応援してゆきたいと考えています。その為に当館として何が出来るか、を今後の検討課題にしています(委細未定)。

今後の展覧会スケジュールのなかで、特筆すべきものはありますか?
●来年には、30代アニメファンには懐かしい某ロボットアニメの展覧会を計画中です。まだ具体的に作品名を挙げてお話しできませんし、この展覧会の件でお問い合わせ頂いても一切お答えできませんが(笑)、単なるアニメーションという枠を超えて愛された作品の、その息吹に触れてもらえるよう、ぜひ実現したいと考えています。さらに、「写真で世界が変わった」というテーマをもとに、今までとは違った視点の報道写真をお届けしたいと思っています。
実は当館の運営予算は別表の通り5年前に比べて半減(2002年度:8億万円)しています。こうした状況では高価な作品収蔵は難しいのが現状です。しかし予算が無いから内容も無い、という事は決して起こるべきではありません。企業との協力強化や、市民参加型のイベントを開催するなど、展覧会の開催にはさらなる工夫が必要です。前出の『ワー! マイキー』上映会然り、あるいは『マグナムが撮ったNY 9.11』展も然り、これからも「ジャンルにこだわらず、柔軟な視点でいつも何か面白いことをやっている」というイメージを皆さんに持って頂きたいと思っています。2002年度は展覧会を30本行った実績がありますので、今年・来年もぜひ注目して下さい。
当館には約10名の学芸員が在籍していますが、昨年度は企業経験者から採用されたスタッフも加わり、今後は外部との交流がさらに活発化すると思われます。こうした新しいブレーンを迎えて決める来年度スケジュールは、決定次第ホームページでお伝えいたします。

観覧者をリピーターとして定期的に引きつけるために情報誌、ホームページの一新やメルマガの発行を行っていますが、広報で力を入れている点は何でしょうか?
●昨年から当館の情報誌『eyes (アイズ)』をリニューアルし、情報を一般に向けて公開するときの「見せるマナー」を改善しました。これまで当館では、情報誌に載せる作品写真は「トリミングしない」「背景に絵柄を配置しない」などの自主的な制限を設けていました。しかし、その制限に則ると必ずしも広告として効果的なものが出来ない場合もあり、結果として「観覧者の興味を掻き立てる」という情報誌本来の意義から遠い印刷物になっていました。そこで昨年はそうした制限事項を見直し、広告物としてのデザインの大幅な刷新、インタビューを掲載したりして読み物として内容を充実させる、といった改良を図っています。
webとはひと味違った情報伝達を目指す
情報誌「eyes」



見易いレイアウトに配慮したという
ホームページ


また4月に行ったホームページ刷新は、印刷媒体への広告予算が極限まで削減された現在、実は広報活動の最後の砦として行ったものです。これまで「つまらない」という声が寄せられていたのを反省材料に、「見易さ」「情報の探し易さ」「リアルタイムな情報」を重視して改良しました(http://www.syabi.com)。お陰で、3月時点では約15万ページビュー/月だったのが、7月時点では35万ページビュー/月にまで浮上しています。今後も頻繁な更新と、ブロードバンドに対応したストリーミングコンテンツの充実などを図る予定です(※既に、展覧会の模様などがストリーミングされています)。
9月26日からは、『テレビゲームの展覧会 レベルX (12月4日より開催)』の展示室内でプレイするファミコンソフトの人気投票もホームページ上で始まります。これなどは、観覧者がホームページから展覧会企画に参加できる、新しい試みのひとつと言えるかも知れませんね。
メールマガジンは、館と観覧者との新たなコミュニケーション手段として注目しています。今後は、発信だけでなく受信もするという双方向的な情報の交流が実現できると良いな、と思っています。そうなる事によって、もっと「みんなの写美」という認識が広まるのではと期待しています。

お話を伺っていて、本当に写美が元気付いてきている感じを受けました。この盛り上がりを続けるため、ぜひこれからも頑張って魅力的な写美にしていただきたいです。
●当館は多くの都民や企業から支援されている、地域に支えられた美術館です。都の助成金、展覧会収入、企業や個人からの維持献金という3つがバランス良く調達できるような体制作りが不可欠です。その前提として、顧客満足度の高い、「顧客の視点に立った企画」とムダのない効率的な運営と行っていきます。この記事を読まれている方にも写美をご存じではあるものの、しばらく館内に足を踏み入れたこと無い方もいらっしゃると思います。そういう方にはこの記事をきっかけとしてぜひ是非足を運んでいただき、「今」の写美をご覧頂きたいですね。

本日はどうもありがとうございました。

写美正門(目黒側エントランス)に立つ久代氏

東京都写真美術館

住 所 〒153-0062東京都目黒区三田1-13-3恵比寿ガーデンプレイス内
(JR山手線/営団日比谷線:恵比寿駅下車・東口徒歩約7分)
URL http://www.syabi.com
電 話 TEL: 03-3280-0099 FAX: 03-3280-0033
休館日 毎週月曜日(休館日が祝日または振替休日の場合、その翌日)
年末年始(12月28日〜1月4日)※2004年は1月2日より開館
開館時間 10:00〜18:00 (木・金は20:00まで)入館は閉館の30分前まで