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  生まれて初めてヒコーキに乗るスマイリー山田・番外編
「ルルルンM-Classics工房探訪記 in Boston」
   
 


スリムなシルエットが特徴のM-Classicsバッグ

 
 先月のPhotoPlus展示会レポートに続き、デジタル改めスマイリー山田がお届けする「ルルルン」シリーズ第二章。
  今回はニューヨークから足を延ばして、マサチューセッツ州ボストン郊外にあるM-Classics(エム・クラシックス)バッグの製造現場をリポートします。柔らかい日差しに包まれながら穏やかな時を刻む工房には、モノ作りの原点ともいえる情熱とクラフトマンシップが、ミシンや裁断機のリズムとともに連綿と脈打っているのでした。
 
  PhotoPlusでの視察と商談を終えた翌日早朝、僕たちはM-Classicsの工房があるボストンを目指した。マジソンスクエアガーデン地下にあるニューヨーク・ペン・ステーションは早朝にもかかわらず、多くの乗客でにぎわっている。鈍く光る車体のアムトラックは、少しずつ紅葉に染まる景色を車窓に映しながら、北に向かって約4時間ひた走る。


 

 当社ショップの地下1階でドンケやテンバと並んで販売されているM-Classicsは、以前から気になる存在だった。シンプルな外観ながら随所に様々な工夫が施され、決して押し付けがましくなく使い勝手を最大限に考慮して作られているのがよく分かる。プレーンでノーブル。僕の好きなキーワードにピタリと当てはまるこのカメラバッグは、いったいどんな人たちによって作られているのだろうか。興味は尽きないけど、気難しい頑固オヤジだったどうしよう・・・。

 予定より少し遅れて、ボストン・バックベイ駅に到着。さすがは370年近い歴史をもつアメリカ東海岸最古の町、統一感のある景観と重厚な建物、そして広い歩道が美しい。この街は別名“a walking town”と呼ばれるほど路地が発達しているので、散歩しながら写真を撮ったら楽しいだろうな。街中いたるところに史跡があり、1630年ジョン・ウィンスロープ率いるイギリス清教徒の一団によって開かれて以来、この街がアメリカ合衆国の独立・建国と共に歩んできた風格を感じる。
 
M-Classicsの社長のはからいで、ボストン美術館にてアンセル・アダムス展を見学。オリジナルプリントは見飽きることのない美しさだった。子供を含めて多くの来場者が訪れていたが、みんなマナーが良い




M-Classics工場の前に立つSeth Levine氏
  さて、駅に迎えに来てくれたM-Classics創業者のSeth Levine氏は、「頑固オヤジ」という僕の予想を裏切るジェントルマンだった。とても気さくだし、よく話しかけてくれる。Seth氏は今回同行した銀一輸入担当の小倉氏と洋服やカメラの趣味が一致し、まるで旧知の間柄のように車中で打ち解けて盛り上がっている。
  お目当ての工房は、バックベイ駅から40分ほどクルマを走らせたボストン郊外にあった。倉庫を改装したような建物に足を踏み入れると、窓辺に整然と置かれた工業用ミシンが渋い輝きを放っている。その奥には革の裁断機と金型、そして革や布などの素材が積まれていた。革の良い匂いと機械の油の匂いが混じり合い、どことなく懐かしい雰囲気が漂う。都会の喧噪を離れた、ゆっくりと流れる時間が心地よい。



古びた、しかし整頓された工房内。設備の割に広く、小学校の教室ぐらいといったところ
工房の壁にズラリと掛かる革の抜き型が、工房の歴史を物語る


   M-Classicsは、1970年代にエルンスト・ライツ・ニューヨーク社が米国現地の報道写真家のために作ったバッグのコンセプトが源流となっている。
  当時ポピュラーだったドイツ本国製のライカ用ケースは、カメラとレンズを定められた場所に収納せねばならない(レンズマウント受けがケース底に固定されている)という非常に使い勝手の悪いガゼットケースであった。そのため、よりフレキブルな使い方のできるバッグを求める声に応えてニューヨークのライツが作ったのが、M-Classicsの祖先となるバッグだったのだ。


  自らも写真愛好家であるSethは、そのニューヨーク・ライツ・バッグの実用性にヒントを得て、1990年代から自分でのバッグ作りを始めたそうだ。実は彼は医学博士としての本業を持ち社会的に安定した地位を築いているので、M-Classicsの生産には採算を度外視したこだわりと情熱が込められるのだ。その甲斐あって、M-ClassicsはアメリカのあるサイトではDOMKE F-803と対比されるほどの知名度を誇るまでになった。
             〜M-Classics〜ユーザーを虜にするコダワリ
日本でも、使うほどに馴染むフィット感と経験に裏打ちされた機能性、そして独特の風合いをもつこのバッグの虜になるユーザーが後を絶たない。Seth自身が説明してくれるM-Classicsの特徴には、情熱抜きに語れない様々なコダワリが隠されていた。
1)高級ブランドと同じ行程を経て鞣された革
  手間の掛かる植物鞣しが施されて柔らかな匂いを放つ牛革は、フランスの馬具メーカーE社と高級鞄ブランドL社に供給されている革と同じラインに乗って鞣されたもの。前出の両ブランドは微細な傷も許さず、納品した革の約8割がハネられて皮革業者に戻って来るという。M-Classicsは業者はこうした選から外れた高級革を仕入れ、本体の補強やショルダーパッドに使っているのだ。使い込むほど味の出る風合いとなめらかな感触は、こうした秘密が隠されていた。


革の品質について打ち合わせをする、左から銀一輸入担当の丹羽・小倉両氏、そしてSeth氏。彼が研究用で集めたという革のコレクションは壮観


2)オープンカーの幌に使われている布
  独特のシルエットを形作る布地はカブリオレクロスと呼ばれ、ベルギーの原反メーカーから仕入れている。本来の用途は、なんとオープンカーのキャンバストップ生地。
  風雨に晒されても車内を快適に保つ耐水性と耐久性を持つ布はカメラバッグ用としてはオーバースペックだが、その選択にはバッグを永く使い続けてほしいと願うSeth氏の想いが込められている。生地をひっくり返すと、織り目がヘリンボーン柄に見えるのが特徴。

webの写真では見づらいが、本体フラップ裏には確かにヘリンボーン柄が見える

 

3)類い希な機能性
  M-Classicsは肌身離さず携帯することを前提に作られているカメラバッグで、地面に置くことを考えていない。そのため衝撃を和らげる素材は底部のクッション入りレザーのみだが、そのレザーが2分割されているので、バッグが腰回りに吸い付くようにフィットする。「バッグを軽く薄くする」という思想的には、DOMKEに通じるものを感じる。
  ポケット配置も独創的で、M型ボディを収納する内部ポケットやレンズ等を入れる外部ポケットは底面から数センチ上に取り付けられいるので、落下の衝撃が直接機材に加わる事が無い。M-Classicsはこうしてクッションを使わずに必要充分な保護製を実現しており、バッグ全体でカメラやレンズを包み込もうとする工夫がよく分かる。
  また、バッグ幅を人間の背幅以下することで不用意な衝突を避けている。たすき掛けし易いストラップの取り付け位置も絶妙。つまり、最大限の工夫によって最小限のクッションで充分な安全性を確保するという、お世辞抜きにバッグ作りの見本のようなパッケージングなのだ。「カメラを保護する」という題目のもとに肥大化して取り回しの悪くなった日本製バッグに一石を投じる作り込みだ。

一糸一糸、職人の手によって縫って組み立てられるM-Classicsバッグ。工房内にはミシンの音が絶え間なく響く。


   黙々と作業を続けていたOtisは、この道45年のキャリアを持つ大ベテラン。
  1980〜90年代には米国の有名バッグブランドC社の下請け工場長として、バッグのデザインまで手がけていた職人肌の人。技術とアイデアを兼ね備えていて、まさにSethの右腕といえる存在だ。
  来年発表予定の新型バッグには、深い造詣を持つ彼の自由な発想が盛り込まれてくるかもしれない。

革の原反の上に抜き型をセットし、それを大きなプレス機で打ち抜いていく行程を見せるOtis氏。「抜きの行程はリズムが大事なんだ」と語る。


               銀一のバッグマスターDr.オグラのTIPS
美しく陽焼けしたバッグ(右)と新品(左)
 M-Classicsの輸入に携わる銀一の海外商品部・小倉氏によれば、「M-Classicsの革は日焼けとともに味が出て、そしてシミや汚れも目立ちにくくなる」とのこと。店頭の新品(左)の革部分は白っぽいが、それを約1ヶ月間陽に当て続けると、右のようにすっかり深い飴色に変色する(小倉私物)。
日差しの強い夏期、約3日おきにバッグ表裏や向きを変えながら窓辺に置き、たまに着古したTシャツなどで軽く磨き、また干す。これを繰り返す事で革に深い色艶が出て、それ以降は水濡れのシミなども気にならなくなるのだそうだ。ポイントは靴クリームなどを使って過剰ケアをしない事で、「最初の色出しだけ気をつければ、あとは適当に乾拭きするだけでO.K.。あまり大事に大事に扱わないで下さい」(小倉:談)。



M-Classicsで試作し、小倉氏が私物M6に装着してテスト中のストラップ。旧ライツ製のストラップをお手本にして、細部を研究中。価格納期未定

                       これからの展望
 現在でもよりいっそうの完成度を目指して、日々改良を積み重ねているのはユーザーにとって心強い。使い勝手に疑問のない大きさではあるが、もう少し小振りなサイズを望む声があるのも事実だ。例えばライカ1台にレンズ2本が入れば十分、という方も多いのではないだろうか。M-Classicsでは現在、そのような要望に応えるための新型バッグの開発を進めている。もしかしたら来年には発表できるかもしれない、という嬉しい連絡をもらった。個人的には、M-Classicsのざっくりとした革の裁断面処理や縫製がもっと綺麗になれば良いと感じている。アメリカらしいその手作り感が彼らの味ともいえるのだが、厳しい目を持つ日本のユーザーをも唸らせる製品を期待せずにはいられない。

                         まとめ
  2年半もの月日を費やして「Leitz」ロゴマークの商標権を得て、ライカユーザーが歓喜するバッグへと昇華させたその情熱はまさに本物だと感じた。社長本人が副業として楽しみながらバッグ作りを続けている道楽的な側面のお陰か、マーケティングにとらわれず本質を見据えた確かなモノ作りには、結果としてユーザーからの共感を得るに十分すぎるほどの魅力が詰まっている。

バッグに誇り高く縫い付けられた往年のLeitzロゴ。1970年代のニューヨークライツバッグの正しい後継者として認められた証だ



 ボストンからの帰国後は、Seth氏とメル友として好きな写真家を教え合ったり、また彼が情熱を傾けるポラロイド55フィルムを楽しむ極意をアドバイスしてもらっています。返ってくる内容が、少しずつ簡単な言い回しと単語になっているのは気のせい?ネイティブにとって僕のつたない英文法とボキャブラリーは衝撃的(笑劇的?)なんだろうなぁ。恥ずかしい。
  ショップではデジタル部門に身を置く者として、アナログの話題を熱く語り合える瞬間は最高の息抜き。僕も学生の頃は写真化学を学んでいたけれど、さすがは現役のドクター。勉強になることばかり。Seth氏が日本に来た時は、輸入担当の小倉氏と一緒に中古カメラ店を案内しよう。もちろんM-Classicsにライカを詰め込んで。


日本でM-Classicsを紹介した本を嬉しそうに手にするOtisとSeth

  ここでご紹介したM-Classicsバッグはこちらでお求め頂けます。
銀一オンラインショップ:M-Classicsバッグコーナー
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